Linux環境の管理には、重大なリスクを伴うことが広く知られています。なぜリスクを伴うかというと、機密性の高い重要なデータ(認証情報、SSHキー、サービスアカウント、デジタル署名、ファイルシステムなど)がLinux環境で扱われているからです。こうしたリスクに対応するためには、特権アクセス管理(PAM)ソリューションが必要になります。しかし、PAMソリューションの多くは、Windowsベースの環境に対応している一方で、Linux/Unix環境に対応できる柔軟性は持ち合わせていません。
この記事では、Linuxにおける特権アクセス管理の基本を解説します。具体的な管理方法に触れる前に、まずはLinux環境の根幹であり慎重に扱うべき、root権限について理解しましょう。
Linuxのroot権限とは?
Linux環境のrootユーザーは、最も強力な権限であると一般的に言われている、管理者操作が実行可能なスーパーアカウントです。rootアクセス権を付与されたユーザーは、すべての管理操作が可能で、システム設定ファイルなどの、一般ユーザーがアクセスできない重要なファイルにアクセスできます。
Windows環境で標準ユーザーに管理者権限を付与する方法と同じような仕組みで、Linux環境で他のユーザーにroot権限を付与できます。Linux環境でroot権限を付与されたユーザーは、すべてのサーバーとネットワークにアクセス可能です(ただし、重要なデータベースではコマンドライン操作に制限あり)。
通常、Linux環境の全ユーザーがネットワークの重要な領域にアクセスできるわけではなく、個別の状況に応じて権限をユーザーに付与する仕組みになっています。root権限は慎重に取り扱うべきであり、付与する際にはセキュリティや業務運用に関わるリスクが伴います。このリスクに対応するためには、共有アクセスを付与するユーザーの限定、使用できるコマンド操作の制限、常時有効な特権の削減などの対策が必要です。
Linux環境に特権アクセス管理のフレームワークを導入することで、Linux系の機密リソースの管理や、アクセス権限の付与プロセスを効率化・自動化できます。
Linux環境でのroot権限の共有
従来、 suコマンドおよびsudoコマンドは、ユーザーがLinuxのroot権限で操作を行うための主なコマンドとして利用されてきました。suコマンドでは、ユーザーがroot権限でコマンドを実行するには、rootアカウントのパスワードを入力する必要があります。一方、sudoコマンドでは、rootのパスワードを入力せずに、root権限で指定されたコマンドを実行できます。sudoコマンドは、ユーザーのアクセス権をrootユーザーと同等の権限に一時的に昇格させるための、実用性が高く、柔軟な権限昇格の方法です。そして、このようなLinuxでのroot権限共有に対して、管理、制御、監査、監視を実施できる手法が、特権アクセス管理です。
なぜLinux環境の保護が重要か?
01. 特権昇格攻撃
Linuxシステムでは、一般ユーザーがroot権限での操作を必要とする場合、一時的に権限を昇格させることが可能です。この「root権限昇格」という仕組みが悪用され、rootアカウントが狙われると、機密性の高いエンドポイントやリソースに対して不正アクセスが行われるリスクがあります。そして、複数の重要なアプリケーションやプロセスが危険にさらされる可能性があります。そこで、アクセス制御の適切なポリシーや体制を整え、時間制限を設けて権限を付与することで、ミッションクリティカルなシステムへのセキュアなアクセスを実現できます。
02. 悪意のある内部関係者による脅威
特権悪用による攻撃は、組織に潜む、悪意のある内部関係者が引き起こすケースが多々あります。このような傾向は、多様な体制を持つ、あらゆる規模の組織で増加しています。悪意のある内部関係者の多くは、内部からIT環境全体の掌握を図るために、永続特権(常時有効な特権)を悪用します。この脅威を回避するには、Linuxネットワークにおける「どのユーザーがどの特権を持つか」を明確に定義することが重要です。この制御により、永続特権を付与しない体制を整え、悪意を持った内部関係者が攻撃を引き起こすリスクを軽減できます。
03. 外部企業による特権の悪用
外部の企業(監査法人、コンサルティングファーム、運用支援会社、開発会社など)からの支援や協力を求めることは、情報システム部門の一般的な慣習です。そして、協力を求める際、業務を遂行してもらうために、特権を付与する場合があります。しかし、第三者に不要な特権を付与した結果としてよく見られる事態は、付与した事実を忘れ、永続特権が放置されることです。このように、外部企業に対する権限管理が不十分だと、特権を悪用した攻撃を招きかねません。
Linux/Unix環境でセキュアな特権アクセスを実現する方法
PAMソリューションによって特権アクセスのセキュアな運用を実現することで、Linuxシステムの特権アクセスをきめ細かく制御・管理できます。Linux環境において、セキュアで効率的な特権アクセス管理を実現するための対策は、以下のとおりです。
01.リソースやアカウントの管理対象化
ネットワークインフラ全体のLinux系ITリソースを定期的に検出し、管理対象として登録します。登録されたリソースは単一のプラットフォームで一元管理され、そのプラットフォームから統合的にリソースにアクセス可能になります。この管理手法により、Linux系システム群のサイロ化を防ぎ、リソースが正確に把握されている状態を実現します。登録された後、組織の要件に応じてリソースをグループ化できます。
02.リモートでのパスワード自動リセット
すべてのリソースおよびアカウントの検出・登録が完了した後、パスワードポリシーを適用します。PAMソリューションを活用することで、社内のセキュリティ要件に基づいた柔軟なポリシー設計が可能です。また、PAMソリューションにはパスワード生成機能を備わっているため、定期的なパスワードローテーションを円滑に実現できます。ローテーションは事前にスケジュールされた自動実行や、必要に応じた随時実行に対応しています。さらに、パスワードのリセットや共有、チェックアウトといった、すべてのパスワード関連操作をリアルタイムで監査できます。
03.効率的な権限昇格
a. ジャストインタイム(JIT)アクセス
特権アクセス管理のフレームワークに組み込まれたJITの仕組みにより、システム管理者はLinuxの特権アカウントをユーザーに一時的に共有できます。JITアクセスが許可されたユーザーは、定められた期間内に限り、共有された特権アカウントのパスワードが使用可能になります。使用期間が終了すると、以後の不正アクセスを予防するために、アクセス権の無効化とパスワードのリセットが即時で実行されます。
b. コマンド制御
コマンド制御により、特権を必要とする特定のSSHコマンド(ファイルを削除するrmコマンドなど)をユーザーが実行できないように制限できます。複数のLinuxコマンドを許可リストに登録すると、許可リストで指定されたコマンドのみが実行可能になります。
さらに、コマンド制御機能を活用することで、必要に応じてLinuxユーザーの権限が昇格され、影響範囲の大きい強力なコマンドの実行が許可されます。この仕組みにより、rootアカウントの認証情報を共有せずとも、本来はroot権限を必要とする操作が、rootアカウント以外のユーザーによって実行可能になります。
このようなLinux環境における特権アクセス管理対策を企業全体で実施するうえで、多くの組織がPAMソリューションの導入を検討しています。
Linux環境における特権アクセス管理のベストプラクティス
- Linux環境のアクティブな特権アカウントを包括的かつ継続的に記録し、必要に応じた記録の最新化を定期的に実施します。
- 業界標準の暗号化アルゴリズムを採用したセキュアな保管システムで、Linuxの特権ID(パスワードやSSHキーなど)を管理します。
- 厳格なパスワードポリシーの適用、定期的なパスワードリセット、強力なSSHキーの生成、一時使用後のIDの自動リセットを導入することで、Linux系リソースを保護します。
- Linux環境のリソースに対するすべてのアクセス権限を、最小特権の原則に従った手法で外部の企業や協力者と共有し、すべての永続特権を即座に取り消す体制を整えます。
- Linux環境で実行される操作(ユーザーのSSHセッション、パスワードリセット、特権の共有など)をすべて監査・記録します。この対策により、被害の防止・最小化につながり、迅速な緊急措置の実施が可能になります。
PAM360によるLinux環境の特権アクセス管理
ManageEngine PAM360は、Linux環境の特権アクセス管理を効果的に実現する、統合PAMソリューションです。特権アカウント、SSHキー、デジタル証明書の一元管理(自動検出、保管、監査を含む)を可能にします。PAM360を活用することで、Linux/Unix環境における特権アクセス管理のプロセスを包括的に自動化し、内部脅威と特権悪用に対して予防的対策を実施できます。