役割ベースのアクセス制御(RBAC)とは、組織でのユーザーの役割に基づいてユーザーの権限が明確に定義・付与される、特権アクセス管理における制御方式です。役割ベースのアクセス制御の概念では、ユーザー役割と特権が重要な要素であり、認可されたユーザーのみが重要なリソースに対して特権操作を実行できます。
役割ベースのアクセス制御とは?
セキュアなアクセス管理の戦略を組織で実施するには、まずユーザー役割が適切に割り当てられているかを確認することが重要です。ユーザー役割とは、各ユーザーが持つ権限を区別し、権限のないリソースへのアクセスを制限するための大まかな役割名を指します。
役割ベースのアクセス制御では、業務内容に応じてユーザーが各種操作を実行できるように、必要最小限のアクセス権限のみを付与します。管理されているデータの機密性を考慮すると、重要なリソースに全ユーザーをアクセスさせるわけにはいきません。理想的なシナリオの例を通して、役割ベースのアクセス制御がどのように機能するのかを詳しく見てみましょう。
たとえば、異なる複数のユーザーがアクセスする機密性の高いサーバーがあるとします。このサーバーに対して、すべてのユーザーがフルアクセスを必要としているわけではない場合、役割ベースのアクセス制御が役立ちます。役割ベースのアクセス制御では、セキュリティに関連する操作やイベントを日々監視しているシステム管理者が、サーバーへのフルアクセスを要求できます。一方、管理者権限を持たないユーザー(管理職やシステム担当以外の従業員などを含む)には、業務に必要な閲覧権限や変更権限のみが提供されます。このように、ユーザーが過剰な権限を持たないような体制を構築することで、セキュリティ侵害を未然に防止できます。
役割ベースのアクセス制御の必要性
役割ベースのアクセス制御では、「重要なIT資産を扱うリスクの高い操作を行っても問題ない」と判断されたユーザーに適切な役割が割り当てられます。したがって、特権を獲得し、重大な操作を行うには、必ずユーザーが認証と認可を受ける必要があります。
役割ベースのアクセス制御の適用により、承認ワークフローを効果的に運用できます。このワークフローでは、機密性の高いITリソース(サーバー、データベース、アプリケーションなど)へのアクセス権限が、管理者ユーザーによる承認完了後に、指定された期間のみ付与されます。役割ベースのアクセス制御は、最小特権の原則(ユーザーの信頼性に関わらず、必要最小限の権限のみを付与すべきというセキュリティ原則)を実現するための基礎的な枠組みです。この制御により、重要なデータが不注意によって漏洩する事態を防止できます。
役割ベースのアクセス制御と他のアクセス制御との違い
役割ベースのアクセス制御では、ユーザーに割り当てられる役割が重要視されます。一方で、同等に重要である他のアクセス制御の方式も存在し、役割ベースのアクセス制御とは異なる特徴を持っています。それぞれの制御方式との主な違いを見ていきましょう。
- 強制アクセス制御(MAC)
- 任意アクセス制御(DAC)
- 属性ベースのアクセス制御(ABAC)
強制アクセス制御(MAC、Mandatory Access Control)
個々のユーザーが変更できない、一元管理された厳重なポリシーに基づきアクセス制御が実施される方式です。
任意アクセス制御(DAC、Discretionary Access Control)
リソースの所有者が全面的にアクセス制御を管理する方式です。所有者がリソースの権限を直接管理し、他のユーザーに対するアクセス許可・取り消しを行います。
属性ベースのアクセス制御(ABAC、Attribute Based Access Control)
ユーザー側の属性(ユーザー役割、職種、勤務地など)とリソース側の属性(ファイルの種類、操作の種類、部署別のアクセス許可設定など)に基づき、アクセス制御を行う方法を指します。
役割ベースのアクセス制御の仕組み
役割ベースのアクセス制御では、適切な権限をユーザー役割に付与することで、ユーザーが割り当てられたタスクのみを実行できるように制御します。この制御を実現するためには、以下の3つの対策が必要になります。
- 入社時にユーザーに役割を割り当てる
- 確実に正当な人物が適切な操作を実行するように、ユーザーを認可する
- 役割ベースのきめ細かいアクセス制御を通じて、特権ユーザーと標準ユーザーの権限を区別する
役割ベースのアクセス制御において、特権を伴うすべての操作が管理者ユーザーの監督下で実行されます。管理者ユーザーは、個々の役割に割り当てられている権限に基づいて、特権IDに対する閲覧、編集、またはフルアクセスを許可できます。効率化のために、役割が似ているユーザーをグループ化し、一括で権限を付与することも可能です。
ユーザーの役割に基づいた権限付与に加えて、ジャストインタイム(JIT)アクセス制御により、きめ細かく制御されたアクセスを、指定された期間のみ提供する体制を実現できます。たとえば、ユーザーがあるリソースに対する特権アクセスを必要としている場合、管理者ユーザーが期間を限定して、アクセスを許可します。ユーザーの作業の完了後、アクセス権限は自動的に取り消されます。この仕組みにより、使用されていないアカウントがシステムに残り続ける事態を回避し、ゼロスタンディング特権と適切に整備されたITインフラを実現できます。
役割ベースのアクセス制御における重要な課題とその解決策
特権アクセス管理(PAM)を業務プロセスに導入することで、役割ベースのアクセス制御は簡素化・自動化され、システム管理者がより効率的に運用できるようになりました。従来の手動運用では、アクセス権限の付与を個別に行う必要があり、非常に骨の折れる作業でした。現在では、効果的な 特権アクセス管理ツールを利用することで、手動管理から脱却し、権限の誤用・悪用を防止するための特権ユーザーに対する継続的な監視を実現できます。
役割ベースのアクセス制御のメリット
役割ベースのアクセス制御を導入することで、各ユーザーによる操作の合理性を担保し、組織的なセキュリティ要件に適合できます。役割ベースのアクセス制御には、以下のような重要なメリットがあります。
- 役割に基づくユーザー管理により、ユーザーの役割が変わった際の対応が容易になります。
- 役割ベースのアクセス制御は、ユーザー権限を適切に割り当て、機密リソースへの不正アクセスを防止することで、組織のコンプライアンス遵守を支援します。
- 重要なシステムに対するきめ細かい役割ベースのアクセス制御により、特権ユーザーの操作範囲を効果的に制限し、攻撃対象領域を縮小できます。特権クリープや特権悪用のリスクを最小化する効果が期待されます。
- 役割ベースのアクセス制御は、組織の規模に関わらず導入可能で、組織の成長やニーズの変化に柔軟にも対応できる、拡張性の高いアクセス管理を実現します。
- 役割に応じて作業を明確に分離することで、1人のユーザーに過剰な権限が集中する事態を徹底的に回避し、不正アクセスのリスクを最小限に抑えます。
役割ベースのアクセス制御によるコンプライアンス推進
役割ベースのアクセス制御を組織に導入することで、わずか数クリックで、コンプライアンス基準(PCI DSS、ISO/IEC 27001、NERC CIP、GDPRなど)に準拠できます。特権ユーザーが行うすべての重要な管理操作の全体像を可視化し、企業全体としてのセキュリティ強化が見込まれます。
役割ベースのアクセス制御を実現するためのベストプラクティス
組織内で役割ベースのアクセス制御を実装するには、堅実な特権アクセス管理の戦略との綿密な連携が重要です。組織のセキュリティを大幅に改善するベストプラクティスは、以下のとおりです。
- 入社時に役割を定義し、ユーザーごとに適切な権限を個別に付与します。
- 最小特権の原則を徹底し、業務を行う上で特定の特権が必要である場合、カスタム役割をユーザーに提供します。
- ポリシーベースのアクセス制御を実施します。この制御により、従業員が作業を完了した際や、退職や異動の際に、事前に定義されたポリシーに準じて、アクセス権限の付与・取り消しが行われます。
- 特権を必要とするユーザーに、指定された期間に限り、きめ細かく制御されたアクセス権限(ジャストインタイムアクセス)を提供します。
- コンプライアンス要件を遵守し、システム上でユーザー役割と特権が適切に紐付けられた状態を確保します。
PAM360による役割ベースのアクセス制御の効率化
ManageEngine PAM360には、機密性の高いパスワードを保管・管理するための暗号化されたリポジトリが備わっています。パスワードデータの保護を強化するには、きめ細かいアクセス制御が重要であり、その実現を支援するのが、PAM360の役割ベースのアクセス制御機能です。PAM360は、基本的な閲覧権限を持つ一般ユーザーから、フルアクセス権限を持つ管理者ユーザーまで幅広く対応しており、認可されたユーザーがリソースを適切に取り扱えるように制御します。この機能により、効率的なアクセス付与の体制が構築され、セキュアなアクスセス管理プロセスを実現します。