ローカル管理者権限:Windowsエンドポイントの重要な要素
エンドポイントとは、ユーザーが企業ネットワークやIT資産にアクセスするための入口になるデバイスの総称です。サイバーセキュリティの観点では、すべてのエンドポイントが潜在的な脆弱性と見なされています。しかし、IT管理者の負担軽減や生産性向上を目的に、ローカル管理者権限を全従業員に割り当てる方針を採用している組織が多くあります。
ローカル管理者権限は、言わばエンドポイントへの鍵のような存在です。ローカル管理者権限が付与されると、そのデバイス上であらゆる操作が可能になり、アプリケーションの実行やソフトウェアのインストールをユーザーが自由にできてしまいます。そのため、この権限を適切に管理しないと、組織全体の機密データがリスクにさらされることになります。さらに、ローカル管理者権限が一元管理されていないと、バックグラウンドで実行されるプロセスやアプリケーションが把握できないため、権限が悪用された場合に情報システム部門が適切な対応を取れなくなります。
一方、エンドポイントのローカル管理者権限を削除すると、ユーザーが通常業務を行う上でシステム管理者のサポートを必要とする場面が多くなります。そのため、システム管理者の作業負荷が増え、組織全体の生産性も妨げられます。
たとえば、あるWindows開発者がMicrosoft Visual Studioで作業しており、効率化のためにローカル管理者権限を必要としている場合を考えてみましょう。この開発者のデバイスの管理者権限を削除すると、開発業務に必要なリソース(拡張機能やドライバーなど)をインストールする際に、情報システム部門に頼らなければなりません。また、ユーザーがさまざまなタスク、プロセス、アプリケーションにアクセスする必要がある場合は、管理者権限がないと生産性の低下につながります。一つ一つの作業を実行する度に、システム担当者の介入が必要になるからです。
特権管理とは?
エンドポイント特権管理とは、組織全体におけるユーザーデバイスのデジタル免疫強化に重点を置いた、サイバーセキュリティ対策を指します。多くの攻撃者は、機密データにアクセスするために、ユーザーデバイスを侵入口として悪用します。現在は、リモートワークの普及により、社内・社外で分ける従来のネットワーク境界が曖昧になり、ユーザーIDやデータの流れに基づいてセキュリティ境界が定まる時代です。したがって、デバイス単位でユーザーやアプリケーションの特権を制限・管理することがより一層重要になっています。
エンドポイント特権管理では、エンドポイントのローカル管理者権限を削除し、ユーザーやアプリケーションに最小特権の原則を適用することで、特権悪用のリスク低減を目指します。このセキュリティ対策により、特定の信頼されたアプリケーションへのアクセス権限が、必要な時間に限りユーザーに付与される体制が整います。この制御は、必要に応じた特権昇格と、きめ細かいアプリケーション制御を駆使して実現されます。
ユーザー単位ではなく、アプリケーションやプロセス単位での特権管理により、きめ細かい制御が可能となります。ローカル管理者権限を削除すれば、業務に必要なアプリケーションに限り使用が許可され、ユーザーはそれ以外のアプリケーションを利用できなくなります。つまり、適度な制限により、セキュリティリスクを低減できます。最適な戦略とソリューションを導入することで、ローカル管理者権限や不必要な特権をユーザーに付与せず、アクセス権を適切に制限したまま、生産性を担保できます。
[特権管理 + アプリケーション制御] - ローカル管理者権限 = エンドポイント特権管理
Windowsの特権管理を効果的に実施するための手順
エンドポイント特権管理の概要とその必要性を理解できたところで、次にWindows環境にエンドポイント特権管理を導入する方法をご紹介します。
Windowsシステムで特権管理を効果的に実施するための手順は、次のとおりです。
1.エンドポイントの検出とインベントリの作成
まず最初に、最小特権の原則を適用するエンドポイントをネットワーク内で検出および分離します。エンドポイントのインベントリを作成・管理しておけば、ユーザーに対する特権昇格ポリシーの作成や、エンドポイント上のアプリケーション制御が容易になります。
2.エンドポイントのローカル管理者権限の削除
ローカル管理者アカウントは、ローカルホストへの管理者アクセスが可能な共有アカウントです。サイバー犯罪者は、重要なシステムを侵害する際の常套手段として、管理者権限の悪用を狙います。その対策として、エンドポイントのローカル管理者権限を削除して、標準ユーザーアカウントに切り替えます。そうすれば、ローカル端末上で危険なアプリケーションをインストール・実行する特権がユーザーから剥奪され、結果として攻撃者がネットワークに侵入するリスクが低減されます。
3.きめ細かいアプリケーション制御の実施
インベントリの作成とローカル管理者権限の削除の次は、IT環境内の管理者権限を必要としているアプリケーションを特定・分離します。そして、各アプリケーションに対して詳細な権限設定を行います(その際、フル管理者権限の付与も可能です)。信頼されたアプリケーションが登録されているホワイトリストを活用し、許可されていないアプリケーション(特に悪意のあるもの)の利用を禁止します。リストに記載されたアプリケーションの権限を必要に応じて昇格させることで、標準ユーザーは管理者の認証情報がなくても、アプリケーションを適宜利用できるようになります。
4.ポリシーによる最小特権の適用
アプリケーション制御のポリシーを定義することで、組織全体で一貫して最小特権の原則を適用できます。「ユーザーがどのような状況で、どの操作を実行できるか」を定義し、きめ細かいポリシーを作成します。ポリシーをもとに、アプリケーションへのアクセス要求をコンテキストに基づいて評価し、その評価に応じて適切な権限昇格を実施します。この仕組みを活用することで、従業員の生産性を妨げることなく、アプリケーションに必要最小限のアクセス権限のみが常に割り当てられている体制を維持できます。
5.ジャストインタイム(JIT)管理者権限の付与
アプリケーションの実行に管理者権限が必要な場合は、エンドポイントまたはドメイン全体で標準ユーザーの権限を昇格させ、一時的な管理者権限をユーザーに付与します。一時的な権限昇格を行うには、デバイスのローカルグループまたはActive Directoryのセキュリティグループにユーザーを追加します。
ジャストインタイム(JIT)特権アクセスは、必要時に都度付与するか、ポリシーに基づいて自動的に付与します。適切な制御によってセッションの監視およびシャドウイングを実施し、特権アクセスで実行されているセッションを包括的に監査します。この効率化された体制により、ユーザーが管理者の認証情報を持っていなくても、監視された状態で、アプリケーションやプロセスへのアクセスが一定期間可能になります。
6.ドメイン外のエンドポイントの管理
社内のアプリケーションに対するアクセス制御に加えて、企業の機密データにアクセスする外部関係者(パートナー企業、ベンダー、業務委託先など)のユーザーデバイスにも最小特権の原則を適用する必要があります。この原則を適用するには、各デバイスにエージェントをデプロイします。この対応により、外部のデバイスであっても、企業ドメイン内と同じ精密さで、特権を監視・制御できます。不必要な特権の付与や放置を避け、不正アクセスを防ぐためには、ドメインに参加していないエンドポイントに対する効果的な管理が非常に重要です。
7.特権の監視
一元管理ツールを使用して、すべての管理対象のエンドポイント上のイベントを継続的に監視・監査します。この対策により、1つのコンソールでログの検索・確認・分析が可能になり、イベントの関連性を把握できます。一元管理ツールには通常、レポートを閲覧できるダッシュボードが備わっています。レポートは、エンドポイントの動作状態、重要なアクティビティログ、その他詳細データを一目で確認できるように整理されています。そのデータを掘り下げて、詳細情報を閲覧することも可能です。加えて、異常を検知するためには、社内だけでなく、ドメインに参加していないエンドポイントのエージェントアクティビティも継続的に追跡する必要があります。
8.リスクの検知と分析
機械学習やAIを用いた行動分析を導入することで、異常なユーザーアクティビティを検知し、不正な特権昇格を未然に防止できます。特権昇格があるたびに各ユーザーの脅威スコアを算出し、スコアをもとにリスクのあるユーザーを特定・追跡します。この仕組みにより、適切かつ迅速なセキュリティ対策を講じることができます。